65歳以上の寝たきり者(調査対象、約32万人)の原因の内、約38%が脳血管障害でダントツであるという。次いで多いのが高齢による衰弱の約15%、3番目が骨折、転倒で約12.5%という(平成10,11年の「国民生活基礎調査」財団法人厚生統計協会、2000年より)。すなわち要介護高齢者になる原因は、上位3者で2/3となります。

2番目の高齢による衰弱は種々の原因による結果の終末像であり、その原因を明確に出来るものでないと思いますが、1,3についてはいずれもその背景因子としてよく知られているのが高血圧症、動脈硬化症、骨粗鬆症などの生活習慣病でしょう。

この生活習慣病は最近でこそ漸く市民権を得てきた言葉ですが、その昔は「成人病」と長らく言い古されて来た概念です。

「成人病」は医学用語?と勘違いする言葉であるが、実は行政用語だそうです。

“40歳から60歳位の働き盛りに多く、40歳前後から急に死亡率が高くなり、しかも全死因の中でも上位を占め、この世代になれば誰もがかかってしまう疾病”との概念でした。

しかし、これでは「加齢に伴う疾病は不可避である」との国民意識の変革を期待することも出来ないし、ひいては高騰する医療費の削減にも繋がらない。つまり「高齢者の増加に伴い医療費は自然増加する!」という、ごく当たり前な考え方(これはまさしく正論であろう)を支持する見方でした。

そこで平成8年12月、(当時の)厚生省公衆衛生審議会は、「生活習慣病(life-style related diseases)」という新たな疾病概念を導入し、生活習慣に着目した積極的(病気)予防策を強力に推進することにしました。

「成人病」にたいして以下の3段階での予防策が考えられますが、

一次予防:生活習慣改善指導

二次予防:早期発見・治療

三次予防:再発防止

これまではそのうち、脳卒中、ガン、心臓病の三大「成人病」の(早期発見・治療の)2次予防に重点を置いていました。それは死因の大多数を占めていたためで、一次予防策は副次的なものと考えられていたようです。

しかし種々の研究の結果、「成人病」の要因には食生活、運動習慣、喫煙、飲酒などの生活習慣が大きく影響していることが判明し、学会、厚生省もその一次予防策に注目し始めた。「生活習慣を見直すと、病気の進行が予防出来る。」との知見が集まりだし、高騰する医療費に歯止めをかける役割も期待されたに違いないが、ここで方針が大きく変わったのでした。

 

誤解を避けるために、この「生活習慣病」との概念を昔から言いつづけてきた人に触れないわけにはいかないでしょう。

「人は血管とともに老いる」

なかなかの名言で、真実をついています。

W.Osler(1849〜1918)の言葉です。
カナダ生れの内科医で、ジョンズ・ホプキンズ大学医学部(アメリカ)の創設に参与し、アメリカに臨床医学を導入した事で有名です。

彼から臨床医としての多くの啓示を受けたのが日野原重明氏(財団法人聖ルカ・ライフサイエンス研究所理事長)でした。(30年以上前の大学卒業直後に、確か日本医事新報で「私とオスラー博士」の題目での紹介文を見かけたことがありました。)

日野原氏は、「大人の慢性病は、ある日突然病気になるのではなく、若いころからの日常生活のあり方やよくない習慣を繰り返すなかで病気の根がだんだん広がっていき、ある年齢に達すると症状が出てくることが多い」ことから、「習慣病」という名称を1977年から提唱してきました。「生活習慣病」の誕生の背景には、このような事実もあったようでした。

ちなみに平成9年の統計では、生活習慣病が原因で死亡した人は全体の約64%であり、がん(約30%)心臓病(約15%)脳卒中(約15%)がベスト3で、脳卒中と心臓病の順位がひっくり返ったのもかなり昔のことになります。

生活習慣病の本質的原因は運動不足と栄養過剰で、別名「運動不足病」とも言いますので、この悪循環をたつには適切な運動、それも有酸素運動(エアロビクス)が有効なのは皆さんご存知の通りです。昔派手なレオタード姿で踊っているのが話題になりましたね。

 
 

ダッシュのような無酸素運動(アネロビクス)では炭水化物しか燃えません。ジョギング・ウオーキング・水泳・自転車などの有酸素運動をすれば、脂肪と炭水化物が半分ずつ燃やされ、脂肪を燃やすときには酸素が必要になるので、酸素を取り入れる呼吸循環器系を活発に使うことになります。

有酸素運動に共通な特徴として

(1)            強度が比較的低い

(2)            長時間行う

(3)            運動様式が規則的

が挙げられています。逆に考えると、これは単調そのもので何か目標がなければなかなか続けられるものではありません。(事実、私がジョギングしているのも、登山の為の体力増強目的です。)

登山はその欠点をクリアしやすい運動形態です。下界でのウオーキングならば一日せいぜい1〜2時間が限度だけれど、登山なら最低でも2〜3時間は歩くことになります。泊まりがけならそれが何日も続く。それだけ長く歩いても、景色を眺めたり動物や植物を観察したり、仲間と話をしたりひとりで考え事をしたりして、飽きることがないのです。
天狗の庭から火打山

登山は、ウオーキングの長所をより大きくし、短所をより小さくした理想的な運動だという人もいます。

低温・低酸素の山岳環境で行なうウオーキング(すなわち登山そのもの)は、通常の環境に比べて脂肪の燃焼量が増えるといいます。この効果は3,000メートル以上の山でなくても、1,000メートル程度で十分だともいわれます。

この最たるものは、雪山登山でしょう。空腹を感じることなく脂肪を減らしたい人は山に行くのが一番でしょう。

鹿島槍天狗尾根にて

健康・長寿関連の有名な書籍に、ハーバード大学A・リーフ教授著『世界の長寿村』があります。リーフ教授が訪ね歩いた世界に点在する長寿村は、ヒマラヤやアンデスなど標高の高いところにあります。また人々はそこで農業などの肉体労働をして、栄養の摂取量が少ない暮らしをしていますが、この条件は山登りそのものです。荷物を背負って坂道を歩くのは農業の労働に似ているし、持っていく食べ物も制限されます。日常的に山登りをすれば長寿者になれるということになります。

 

世界的なプロスキーヤで、今春に親子4代でヨーロッパのモンブラン氷河の滑降を行い、見事成功した三浦雄一郎さんは、「山登りは生活習慣病予防の王者である」と言います。
彼は2002年秋に世界第6位の高峰、ヒマラヤの8000m峰、チョー・オユー(8201m)に登頂し、ヒマラヤ8000m峰の高齢者記録(69歳)を塗り替えました。この遠征の前に鹿屋体育大学(鹿児島県)の山本正嘉助教授の指導で、高地同様の低酸素状態を人工的に作り出すシミュレーターでトレーニングを繰り返したとのことです。彼のこの記録は、その後10月1日に71歳の女性、内田敏子さんによってあえなく破られました。彼女が参加したのは一般公募の登山隊であり、酸素ボンベや食料、装備の荷揚げなどを支援隊に任せることも可能など、少数のアルペンスタイルと同一条件でないとしても、最後は自分の足で登るしかない高所登山の世界です。

しかし追い越されたのもつかの間、かねての予定通り(チョー・オユーの先には、35年前にそのサウスコルから彼自身、世界で初めてスキー滑降したエベレストが目標にあった)目出度く、世界最高峰のエベレストの登頂に成功しました。

チョー・オユー
(8201m/世界第6位の高峰)
今年林隊長率いる
カランクルン遠征隊4名が
登頂に成功した。

高齢者の8000m登山記録は何歳まで辿り着くのか?げに恐ろしいと共に興味のあることです。

ある会で彼女の登頂話を聞いて身近でお話しましたが、本当に何処にでも居るおばさん(!)に他ならないのです。何処にそれだけのエネルギーがあるのか?それは彼女の前向きの思考方法、即ち私がいつも言う「プラス思考」の持ち主であることに根源を見出せそうです。皆さん!プラス思考で生きましょうね!

勿論山登りだけでなくとも、ウォ-キングも楽しいものです。山にいけない人は、町の中でも常に(!)新しい発見が出来る、逆に新しい発見をする為に車で通り過ぎてきた界隈を歩き回りましょう。きっと心身ともにリフレッシュするに違いありません。しかしご注意を!俗に言う「シャリバテ」(食べないで登山を続けるとバテる現象)は、脂肪の燃焼に炭水化物が必要な為であり、楽しく登山(ウオ-キング)を続ける為には、休憩毎に適度の栄養補給をすることが必要になります。

些か手前味噌になりましたが、何でもあれ体を動かす習慣は大事です。今後も趣味を通じて、人生の感動を大きくして行きたいと思っています。

P.S. 「もし体調を崩して山へ行けなくなったらどうする?」ですかって?うーん困りましたね。何か軽い運動やその他の楽しみを見出しますよ。難しいことを考えても仕方ありませんよ。『ケ.セラ.セラ』の精神です。

(おわり)

 
   
   
   
 
   
   

生活習慣病と山登り
−山登りの効用とは−

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